先月に引き続き、M&A情報の総括として経済産業省中小企業庁が発信している、中小M&Aガイドライン(2020年3月31日に中小企業におけるM&Aが円滑に促進するよう策定されました。)をご紹介します。M&A全般の知識と理解を包括的に深めていただくため2021年3月までに5~6回に渡りその内容ご紹介をM&Aコラムで掲載致します。 今回の掲載分(第3回)は、中小M&Aガイドライン「第三者への円滑な事業引継ぎに向けて」から「第1章 後継者不在の中小企業向けの手引き」について、「I 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義等」をご案内します。 経済産業省中小企業庁 中小M&Aガイドラインについては「経済産業省中小企業庁 中小M&Aガイドライン」を参照し、ご確認及びご参考にしてください。

第1章 後継者不在の中小企業向けの手引き
1 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義 中小企業は、事業承継を検討するに当たり、一般的には、後継者候補を経営者の親族内から選定し、仮に親族内に不在であれば自社の役員や従業員の中から選定しようとすることが多い。しかし、後継者不在の中小企業においては、社外の第三者に後継者候補を求めるほか事業承継の選択肢がなく、それが実現できなければ廃業を余儀なくされることになる。中小 M&A は、このような後継者不在の中小企業が、社外の第三者による事業承継のために M&A の手法を用いるものである。 次に中小M&Aガイドライン記載の中小 M&A 成功事例14件の中から4件、失敗例4件の中から1件挙げます。
【成功例】
(1) 小規模企業・個人事業主において中小 M&A が成立した事例
・ 小規模企業において成立した事例 譲り渡し側:A 社
・業種:計測機器の製造
・売上高:3000万円
・従業員:3名
・業歴:40年
□譲り受け側:B 社
・業種:計測機器の施工
・メンテナンス
・売上高:5億円 □関与した支援機関:地元信用金庫、事業引継ぎ支援センター
【意思決定に至るまでの経緯】
○10年前に先代経営者の他界に伴い、当時既に65歳を超えていた佐伯友彦(仮)が A 社の社長に就任した。その後、業績は伸び悩み従業員の高齢化も進んだため廃業を検討したが、取引先に迷惑を掛けられないと、事業の継続を決断した。
○地元信用金庫に相談をしたところ、M&A の公的機関として事業引継ぎ支援センターを紹介された。佐伯は自社の事業規模や財務状況から M&A は難しいと考えていたが、同センターでの相談は無料と聞いたため、取りあえず相談した。
【成立に至った経緯】
○佐伯の予想に反し、事業引継ぎ支援センターから4社の紹介を受け、うち2社と面談し、A 社の技術力や商圏を高く評価した B 社への事業譲渡実行に至った。 【成立に至った後の経緯】 ○A 社の製品は熟練の技術が必要であるため、A 社の従業員は引き続き雇用され、また取引先との関係から佐伯は顧問として B 社の事業拡大に貢献している。
(2) 経営状況が良好でない中小企業において中小 M&A が成立した事例
・ 赤字であるにもかかわらず成立した事例
<事例の概要>
□譲り渡し側:A 社
・業種:ホテル事業
・売上高:10億円
・従業員:20名
・業歴:45年 □譲り受け側:B 社
・業種:ホテル事業
・売上高:50億円
□関与した支援機関:(顧問)税理士、M&A 専門業者
<中小 M&A の経緯等>
【意思決定に至るまでの経緯】
○A 社代表者である斉藤勇(仮)は、裸一貫でホテル事業を立ち上げ、丁寧かつ時流をとらえたサービスが評判を呼び、業界でも有名な経営者となった。しかし、近年は競合他社が増えたこともあり、客足が徐々に遠のき始め、最近3期は経常損失を計上していた。また、後継者候補であった一人息子は病気で亡くなっていた。
○75歳となった斉藤は、まだ自分の体が動くうちに中小 M&A により事業を残したいと考え、顧問税理士に相談した。
【成立に至った経緯】
○顧問税理士から紹介された M&A 専門業者が業界内に太いパイプを有していたため、約2か月で B 社とのマッチングが成立した。B 社は、A 社の知名度だけでなく、丁寧なサービス、教育体制と人材の質を評価した。斉藤も「自分の会社を評価してもらえた」と喜んだ。斉藤は、A 社の全株式を B 社に譲渡し、A 社から引退した。 【成立に至った後の経緯】
○斉藤は、株式の対価である譲渡代金と退職慰労金を受け取り、老後資金として十分な額を確保することができた。引退後は、悠々自適な日々を過ごしている。
(5) 譲り渡し側の条件の明確化が中小 M&A の成立に寄与した事例
① 譲り渡し側経営者の希望通り、従業員の雇用が引き継がれることを条件として成立した事例
<事例の概要>
□譲り渡し側:A 社
・業種:メッキ加工業
・売上高:2億円
・従業員10名
・業歴:45年
□譲り受け側:B 社
・業種:溶接加工業
・売上高:10億円
□関与した支援機関:(顧問)税理士、M&A プラットフォーム
<中小 M&A の経緯等>
【意思決定に至るまでの経緯】
○A 社は、代表者である隅田紀子(仮)が80歳間近となる中、熟練の職人を抱えていたものの、親族・従業員に承継意思のある後継者が不在のため、中小 M&A を検討し始め、顧問税理士に相談した。
【成立に至った経緯】
〇A 社は顧問税理士に勧められ M&A プラットフォームを活用した。複数件の譲り受け側候補のうちの一社が、他地域で溶接加工会社を営む B 社であった。
〇B 社は、A 社の熟練の職人の技術力を評価し、自動車用金属部品の加工の点で自社事業との相乗効果(シナジー)があると考え、事業譲渡契約締結に至った。
○A 社及び隅田は従業員の雇用継続を第一条件として伝え、譲渡額は譲歩した。
【成立に至った後の経緯】
○B 社は A 社及び隅田との約束通り、A 社従業員の雇用を全て引き継いだ。それと並行して B 社は全従業員へのヒアリングを行い、中小 M&A を機に人事制度改革・ 働き方改革等を進め、待遇の改善が実現した。
(7) 廃業を予定していたものの中小 M&A が成立した事例
① 事業の一部を中小 M&A により譲渡し、廃業費用を捻出した事例
<事例の概要>
□譲り渡し側:A 社
・業種:製造業
・小売業
・売上高:8億円
・従業員:30名
・業歴:30年
□ 譲り受け側:B 社
・業種:製造業
・売上高:10億円
□ 関与した支援機関:(顧問)税理士
<中小 M&A の経緯等>
【意思決定に至るまでの経緯】
○A社は、製造業・小売業の2つの事業を営んでいた。小売業は黒字で採算がとれている一方、製造業は常に大幅な赤字で不採算であった。しかし、製造業のみに利用している工場の閉鎖には、数千万円単位の廃業費用が見込まれており、A 社の代表者である伊藤博(仮)は、製造業の部門の閉鎖を決断できずにいた。
○そのような状況で、伊藤は70歳となり、後継者候補もいないことから、顧問税理士に中小 M&A の相談をしたところ、その関与先である B 社を紹介された。
【成立に至った経緯】
○B 社は、A 社の小売業部門の独自性・流通網に大きな魅力を感じる一方、製造業部門は不採算部門として認識し、小売業部門のみの譲り受けを希望した。そのため、A 社は、B 社に対し、小売業部門のみを一部事業譲渡した。 【成立に至った後の経緯】
○A 社は、B 社から受け取った事業譲渡対価から、製造業部門の廃業費用を捻出することができたため、伊藤は A 社を解散・清算して無事に閉じることができた。
【失敗例】
(8) 何らかの理由により中小 M&A が成立しなかった事例
・中小 M&A 着手が遅れたため、資金繰りが尽きてしまい、中小 M&A が不成立に終わり廃業した事例
<事例の概要>
□譲り渡し側:A 社
・業種:設備工事業
・売上高:5000万円
・従業員:5名
・業歴:40年
<中小 M&A の経緯等>
【意思決定に至るまでの経緯】
○A 社代表者である大岡千太(仮)は70歳で、後継者候補もいないものの、多忙な毎日に追われ、事業承継を考える暇がなかった。
○A 社は、金融機関から約2億円の借入を行い、なんとか事業を継続していたが、大岡は体力が徐々に落ち始め、満足に営業できなくなってしまった。それと並行して、A 社は顧客が少しずつ離れていき、3年前に約1億円あった売上も約5000万円に落ち込んだ。資金繰りは日に日に悪化していき、2~3か月以内に資金繰りが尽きることが見込まれる状況に陥ってしまった。 ○そこで、大岡は弁護士に相談し、社外の第三者に事業を譲り渡そうと決意した。
【不成立に至った経緯】
○資金繰りが悪化する中で、A 社が譲り受け側(スポンサー)を探す時間的な余裕はほとんど残されていなかった。また、弁護士が紹介した M&A 専門業者が懸命にスポンサー探索を行った結果、スポンサー候補が複数社、A 社に関心を示したものの、活気を失った A 社の事業を譲り受ける決意をしたスポンサーは現れなかった。
【不成立に至った後の経緯】
○A 社は、資金繰り悪化に耐えきれず破産し、廃業した。また、A 社の金融機関か らの借入について個人保証(経営者保証)していた大岡も、同時に破産した。
・社外へ情報が漏れたことに伴い、中小 M&A が不成立になった事例
<事例の概要>
□譲り渡し側:A 社
・業種:製造業
・売上高:3億円
・従業員:20名
・業歴:30年
<中小 M&A の経緯等>
【意思決定に至るまでの経緯】
○A 社代表者である遠藤茂(仮)は、後継者候補がいないことから、金融機関からの紹介で M&A 専門業者に中小 M&A の相談を行った。
【不成立に至った経緯】
○M&A 専門業者が迅速に動いたことから、4か月で、B 社とのマッチングが実現した。基本合意を締結し、あとは最終契約に向けて交渉を詰めていく段階にあった。
○遠藤は、当該 M&A 専門業者から「M&A が成立して無事に決済が完了するまでは、M&A に関する情報は慎重に取り扱うようにし、自社の従業員や社外の方には決して知らせないように。」と再三にわたって忠告されていた。しかし、遠藤は、B 社が譲り受け側に事実上内定したと認識して安堵し、まだ決済どころか最終契約も完了していないにもかかわらず、従業員や一部取引先を含め、色々な関係者に B 社の名前を出した上で、中小 M&A を行おうとしている事実を伝えてしまった。
○B 社は、遠藤により中小 M&A の情報が流出したことを知って激怒し、信頼関係が破壊されたことを理由に、その後の中小 M&A に関する交渉を打ち切った。
【不成立に至った後の経緯】
○その後、A 社は、遠藤が90歳を迎える頃まで徐々に事業規模を縮小していき、最終的には廃業に至った。遠藤は、B 社との交渉が決裂した後になって初めて、中小 M&A に関する情報の取扱いの重要性を理解した。 譲り側にマイナスのイメージがあるが、その中にはなじみが薄いものあります。 しかし、そのような形の時代背景である。

■譲り渡し側にとっての基本姿勢
(1) 中小 M&A に関する基本的な認識の変化 中小 M&A に対する従来否定的なイメージが肯定的に受け入れられる感覚が、中小企業の間にも徐々に浸透してきていると言われている。 近年、事業引継ぎ支援センター等の公的機関の整備を含め、中小 M&A に関する支援機関は充実してきていることから、中小企業にとっても、以前より支援機関へのアクセスが容易になり、支援を受けやすくなってきていると言える。
(2) 従業員・取引先等への影響の緩和 事業を社外の第三者に譲り渡して存続させることにより、従業員の職場を残して雇用の受皿を守ることができる。また、取引先(仕入先・得意先等)との取引関係を継続させることができれば、地域におけるサプライチェーンの維持にも資することになる。 このように、譲り渡し側経営者は、自身の従業員・取引先等への影響を緩和するという観点でも、中小 M&A には意義がある、という点を認識することが望まれる。
(3) 譲り受け側から見た、譲り渡し側の事業の魅力 譲り渡し側の事業が小規模であったり、赤字や債務超過であったりしても、譲り受け側が事業の価値を認めて「ぜひ譲り受けたい」と申し出ることは大いにあり得るということを認識すべきである。 口実の通り、早期に支援機関へ相談してみることが望まれる(なお、貸借対照表の簿価上は債務超過であっても、資産・負債を時価評価し直した結果、実態としては資産超過であることが判明するケースもある。)。
(弊社参考資料:M&Aコラム第11回
(弊社参考資料:M&Aコラム第12回

■譲り渡し側にとっての留意点
(1) 早期判断の重要性 家族、従業員や取引先等に迷惑を掛けないためにも、経営者は、早期に判断し、対応を見極めることが重要である。
(2) 秘密保持の徹底
(弊社参考資料:M&Aコラム第1回 ステップ③
(弊社参考資料:M&Aコラム第13回
(3) 中小 M&A 手続進行上の留意点
本ガイドラインはあくまで中小M&A の基本的な手続を示すものであり、全ての中小 M&A において厳格に本ガイドラインに記載する全ての手続を実施することを要請するものではない。

以上、M&Aコラム第21回 【ご案内】中小M&Aガイドライン第3回でした。
弊社のM&Aコラムやホームページも合わせて参考にしてください。
次回も引き続きガイドライン内容の続きに触れていく予定です(次回、M&Aコラム第22回 【ご案内】中小M&Aガイドライン第4回 2021年3月更新予定)。

 


リンク:経済産業省中小企業庁 中小M&Aガイドライン